良いお年を

事業所で年末に爆発事故があった。
小規模な爆発で人的被害は無かったが運が良かっただけだろう。タチが悪いことに原因は不明だ。

今年度は組織が変わり、私が所属する研究開発部はスケールアップを行う機会が減ってしまった。そのため、たまに新入社員のスケールアップ実験を見るとヒヤヒヤすることがある。

来年度から私もポジションが変わる。効率と安全を両立できるグループを作っていきたい。

アジ化ナトリウム (Sodium Azide)の爆発

2014年11月17日午後、京都工芸繊維大学で爆発。学生五人が顔などに怪我を負ったが命に別条はない。アジ化ナトリウムをフラスコで加熱中に爆発した。

重傷者が出ずに本当に良かった。前回の投稿に続き、再びアジドの事故である。NaN3でなければ進行しない反応もあるが、DPPA等の代替品もあるのでNaN3の使用はなるべく避けるべきだ。(ラボレベルではNaN3は安全な部類に入ると思うが、アジドなので爆発の危険性は常に伴う)

Diphenylphosphoryl Azide 26386-88-9 | 東京化成工業株式会社

事故が学生実験もしくはラボで実験中どちらで発生したのか気になるので、後日問い合わせようと思う。

追記 (2014/11/29)
事故が発生した11月27日に事故に関する以下のアナウンスがなされていた。迅速に事故の概要を公開しており非常に良い。

京都工芸繊維大学で発生した事故について(お詫び)

関係各位

平成26年11月17日(月)13時頃、京都工芸繊維大学創造連携センターにおいて、実験中にフラスコが破裂し、学生5名が救急搬送されました。怪我の程度はいずれも軽傷です。

実験室において、アジドエタノールを合成するために、フラスコで試薬を加熱していたところ、フラスコが破裂し、飛び散ったガラス片により負傷したものです。なお、この事故による火災は発生していません。

近隣にお住まいの皆様、関係の皆様には、多大なるご迷惑とご心配をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。原因につきましては現在調査中ですが、事故原因が判明次第、再発防止の徹底に努めてまいります。

平成26年11月17日
京都工芸繊維大学長 古山正雄

http://www.kit.ac.jp/01/topics/2014/owabi.html

推測すると、2-bromoethanolか2-chloroethanolとNaN3のSn2反応で合成していたのではないかと思われる。確かに、この反応ならNaN3を使うだろう。そこまで早い反応でもないので、系内のNaN3が過剰にならないようにNaN3溶液を時間をおいて分割で添加するぐらいしか思いつかない。また、金属が触れていないか注意するぐらいか。

Trimethylsilyl azide 合成中に爆発

Explosion injures University of Minnesota graduate student - The Safety ZoneExplosion injures University of Minnesota graduate student - The Safety Zone | The Safety Zone

要約
Org. Synth. 1970, 50, 107に従いTrimethylsilylchloride (TMSCl)とSodium azide (NaN3)を反応させTrimethylsilyl azide(TMSN3)を合成中に爆発。被害者の大学院生は腕・脇・鼓膜に怪我。またガラスを除去するために手術が必要だが命に別条はない。

TMSN3は国内の試薬メーカーでも比較的安価に販売されているので、大量に使用するのでなければ合成する必要はないだろう。
Trimethylsilyl Azide 4648-54-8 | 東京化成工業株式会社

サウサンプトン大学で博士課程学生がヒ素・タリウム中毒

UK university lab shut after student poisoning | News | Chemistry World

要約
サウストンプソン大学に在籍する25歳の博士課程大学院生がヒ素タリウム中毒になり治療中。学生は現在病院に入院しており、毒物の専門医による治療を受けている。大学当局は研究棟を閉鎖して安全を確認中であるが、現在のところ入院した大学院生以外の健康被害は確認できていない。警察と衛生安全委員会は毒物を摂取した経路を調査している。

トリメチルシリルアセチレンの爆発

Chemical Safety: Trimethylsilylacetylene Explosion | Chemical & Engineering News

要約
トリメチルシリルアセチレン(TMSA)のGlaser-Hay反応でTMSA二量体を合成中(>100gスケール)に爆発が発生し実験者が重症。これ以前に本反応での爆発は報告されていなかった。

Org. Syntheses 1993, Coll. Vol. 8, 63に従い、酸素雰囲気下でCuCl:TMEDA錯体触媒のアセトン溶液をTMASのアセトン容器に滴下したところ、滴下を開始した直後に爆発が発生した。触媒を滴下しても反応温度の急上昇は見られなかったため、熱暴走が原因とは考えにくい。また数滴滴下しただけで爆発したので、爆発性の銅アセチリドが沈殿したとも考えにくい。

著者は、原因を静電気のスパークであると考えている。反応容器に挿したシリンジのニードルとデジタル温度計の熱電対との接触によって、溜まっていた静電気が放電してスパークが発生した(冬にドアノブを触ると放電が起こるのと同じ)。そして酸素で満たされた系内でTMSAに引火して一気に爆発したと考察している。